イタリア土着ブドウ列伝

 イタリアの代表的葡萄から超ローカルな土着葡萄まで、ご紹介していき
 ます。葡萄品種の特質を知ることによって、その土地の風景から、その
 生産者の思い、ワインの味わいの世界までもが見えるようになります。


  No.12  トレッビアーノ・トスカーノ  Trebbiano Toscano

同義語: カステッリ・ロマーニ、ボビアーノ、プロカニコ、サントーロ
アルバーノ、サンテミリオン、ユニ・ブラン、ルーザン
歴史:エトルリア起源のブドウとされる。すでにプリニウスの時代に
も引用された多くのトレッビアーノの中で最も重要なトレッビアーノ。
トスカーナとリグーリアの間にあるルーニ界隈にあった古代エトル
リアの村「トレブラヌム」か、もしくはコッリ・ピアチェンティーニ地区
に向って流れる「トレビア川」が恐らくその由来となる名前。トスカ
ーナ、ラツィオ、ウンブリアを中心に国内では最も広く耕作されるブ
ドウ品種。
特徴:中位から大き目の葉、五角形の五列葉。葉の表面が無毛で暗緑色。
房は大ぶりで18〜25センチある。ややコンパクトに詰まっていて
翼を広げたような形。粒は中ぐらいで円盤型、規則的な形。皮は中ぐらいの強さで、クローンによって緑がかった黄色かピンクがかった黄色。蝋粉もやや付着する。
樹勢: 著しい
生産性:非常に大量。一貫性がある   
成熟: 10月初旬から中旬
    
◎「ワイン用葡萄ガイド」(ジャンシス・ロビンソン著)からの抜粋
Trebbiano
平凡なユニ・ブランに対するイタリアでの最も一般的名称で、群を抜いて
多く栽培されている白ブドウである。ワイン名のトレッビアーノと言う単語は
常に軽く酸のきいた、しかし興奮させられるような白ワインでないという
シグナルである。

この黄金色、琥珀色さえ呈する実をもつ品種は数多くの実をつけ、世界の
二大ワイン産出国であるフランスとイタリアでいずれも広く栽培されている。

それゆえ、たとえスペインのアイレンと、黒ブドウのガルナッチャがより広い
作付け面積を持つとしても、おそらくトレッビアーノが世界のいかなるブドウ
品種よりも多くのワインを作り出しているはずである。

イタリアでは、トレッビアーノはその様々な亜種が、サンジョヴェーゼよりも
さらに広域で栽培されている。他のどの品種(約80)よりも多くDOCワインに
登場し、おそらくイタリアの全DOC白ワインの3分の1以上に使用されている。

◎様々なトレッビアーノ

トレッビアーノ・トスカーノ ⇒ イタリア中南部

トレッビアーノ・ジャッロ ⇒ イタリア中南部

トレッビアーノ・ロマニョーロ ⇒ イタリア中北部

トレッビアーノ・ダブルッツォ ⇒ イタリア・アブルッツォ州

トレッビアーノ・ディ・ソアーヴェ ⇒ イタリア・ヴェネト州

トレッビアーノ・デッラ・フィアンマ ⇒ イタリア中北部

トレッビアーノ・ディ・ルガーナ
 ⇒ イタリア・ロンバルディア州




◎トレッビアーノ・トスカーノ種のイタリア分布図◎ヴィーテ・イタリア高岡的見解

上記のように一言でトレッビアーノといっても各地方によって
呼び名が微妙に違うばかりか「亜種」として分類学上扱われて
いますので、ここでは最もメジャーな存在であるトレッビアーノ
トスカーノだけを取り扱います。

まずは、トレッビアーノ・トスカーノのメッカ、トスカーナ地方から!




 ここに挙げている
DOCワインは、はっきり言ってあまりメジャーの存在とは
いえません。

そして、すべてのワインのトレッビアーノ・トスカーノの配合比率はだいたい50%
前後で、ほとんどのワインがマルヴァジア種とのペアです。

(このマルヴァジア種も亜種だらけのイタリア全国で耕作されるブドウです。)

つまりあまりキャラクターの出ないワイン。日本にもほとんど輸入されて
いないのが現実です。

ただ地図に薄緑色で塗った「コッリ・デッレトルリア・チェントラーレ・ビアンコ」は
いわば「キャンティ」の生産地区の白で、今でも赤ワインである「キャンティ」に
もそのブレンドが認められています。

少し粗野で田舎臭いキャンティを見かけたら、そこにはトレッビアーノが入って
いるかもしれません(^^;)


あと、トスカーナ地方のトレッビアーノ・トスカーノで見落としてはならないのは
極甘口ワイン「ヴィン・サント」になることですね。これもマルヴァジアとのペアで
造られます。

ヴィン・サントではマルヴァジアのほうが多くブレンドされる傾向にあります。

これは、マルヴァジアのほうが香りのレベルが高いからではないかと勝手に
想像しています(^^;)

次、お隣のマルケ地方に行って見ましょう。




マルケ州の白としては、ヴェルディッキオが圧倒的に主人公なわけですがここにも
トレッビアーノ・トスカーナ種の存在が伺えます。

特にマルケ南部のファレリオはシャルドネとブレンドされる形で最近日本にも
紹介されるようになってます。やはり国際品種の力を借りつつ全体の質感を
出してくるこのブドウ品種のブレンド用ワインとしての性格が現われています。
⇒ ファレリオ・ビアンコ(今日本で唯一楽しめるファレリオかな)


次はマルケの南西「イタリアのへそ」 ウンブリア州です。



ここにも性懲りもなく(!)色んなワインの主要品種になっています(^^;)

とはいえ、ほとんどが50%前後の比率です。

ウンブリア州の白の主人公はオルヴィエートでしょうね。
トレッビアーノ・トスカーノ主体のワインで、ラツィオ州の色んなワインと
共通の「薄さ」「苦さ」が出たワインだったのですが、近年とてもフルーティーで
ワインとしても完成度の高いものが出てきています。す。

オススメできるオルヴィエートは、モンルビオ社、パラッツォーネ社、そして
カステッロ・デッラ・サーラ社(アンティノーリ)ですね。この3つのワイナリーはウンブリア州でも
傑出した生産者だと思います。



 次はローマのあるラツィオ州へ



 やはりウンブリア、ラツィオ、トスカーナはトレッビアーノ・トスカーノの世界ですね。

 ただ面白いことにラベルに「トレッビアーノ・トスカーノ」とは絶対に名前が出ない。そして
必ず別の品種とブレンドされる。その仲良しペアがまたもやマルヴァジアですね。

 ローマの代表選手はなんといってもフラスカーティでしょう。近年の成長目覚しい
僕が大好きなワインです!

 フルーティーで独特の苦味があって、良いフラスカーティにはフルーティーな酸が
きっちりとあってブドウの種を噛み潰した時のような独特の苦味が最後に出てきます。
この苦味を否定するとフラスカーティではなくなります。

 かつて僕の愛するフォンターナ・カンディダ社の醸造家フランコ・バルディ氏が
ローマ訛で僕に言ったものです。

 「フラスカーティはバリック(フレンチオーク熟成)には似合いませんよ」

 イタリアワインらしい素朴でどんな料理に合わせても楽しい気分にさせてくれる
魔法のワイン・・・・それがフラスカーティですね!それはイコール「トレッビアーノ・
トスカーノ」の魅力なのかどうかは、色んなブドウ品種がブレンドされているだけに
なかなか判別つきません(^^;)

オススメのワイナリーは、基準点ともいうべきフォンターナ・カンディダ社、力強さの
コスタンティーニ社、洗練の極みともいうべきカステル・デ・パオリス社

 フラスカーティ以外であれば味わい的にも似通っている
 「エスト!エスト!!・エスト!!!ディ・モンテフィアスコーネ」があります。この
地方でもっとも活躍している醸造家リッカルド・コタレッラがオーナーのワイナリー、
ファレスコ社のものが素晴らしいです! ⇒ ファレスコ社のワイン


 トレッビアーノ・トスカーノ種が主要品種となるワインはまだまだ続きます。

 
お次はラツィオのお隣 アブルッツォ州。



 この緑色の一帯がトレッビアーノ・ダブルッツォ
DOCの生産地域になります。

「あれ?トレッビアーノ・ダブルッツォはトレッビアーノ・ダブルッツォ種じゃないの?」

と、思われるかもしれません。・・・・・・・・・・・・・その通りです。

ただ
DOCの規定では「トレッビアーノ・ダブルッツォ種又はトレッビアーノ・トスカーノ種」
という表現がされています。

いったいどんな差があるのかは定かじゃありませんが、トレッビアーノ・トスカーノ種の
方が大量生産向きで生産性が著しいと言われています。

トレッビアーノ・ダブルッツォといえばあの孤高の醸造家エドアルド・ヴァレンティーニを
思い出しますが、あのイタリア屈指の白ワインでさえ実は、ボンビーノ・ビアンコである
とジャンシス・ロビンソンは言っています。
エドアルド・ヴァレンティーニ

因みにバートン・アンダーソン(イタリア在住アメリカ人ジャーナリスト)はヴァレンティーニの
トレッビアーノを


プラスチック製家具がひしめく室内に超貴重品のアンティーク家具がただ一点、
掃き溜めの鶴のようにそびえる趣である。



と形容しています。




トレッビアーノ・トスカーノは品質的にあまり信頼を獲得していないようです(^^;)

ただ、トレッビアーノ・ダブルッツォDOCに関しては、ラベルに名を冠する銘柄として
北イタリアの「トレッビアーノ・ディ・ロマーニャ」よりははるかにポテンシャルが高く
コストパフォーマンスの面からも断然の将来性を指摘されています。

赤のモンテプルチャーノ・ダブルッツォと並んでアブルッツォ州のワインは今後の
成長が最も期待されるイタリアワインであると言えます。


では、次はモリーゼ州。トレッビアーノ・トスカーノはいったいどこまで続くんで
しょうか!!(^^;)




 日本でもっともマイナーなイタリアの州かもしれませんね。モリーゼ州。

DOCはペンとロ・ビアンコとビフェルノ・ビアンコ、そして比較的新しいDOCとして
ビフェルノ地区とペンとロ地区双方に広がるモリーゼDOCがあるが、こちらは
モスカートやシャルドネを単体で醸造してもモリーゼDOCとなります。

この州では圧倒的にディ・マーヨ・ノランテ社の存在が光っています。
ディ・マーヨ・ノランテ


 
次は土着白ブドウの宝庫、カンパーニア州です。



 カンパーニア州は、グレコ種、ファランギーナ種、フィアノ種、ビアンコレッラ種
 コーダ・ディ・ヴォルペ種などなどギリシャ文化を受け継いだ固有ブドウの宝庫
 ですが、それでもトレッビアーノ・トスカーノ種はその絶大なる生産性を武器に
 進出しているようです。

 
それでも、やはりメジャーワインは、「グレコ・ディ・トゥーフォ」、「フィアノ・ディ・アヴェッリーノ」
の両DOCGを筆頭に、カンパーニアワインの白の桧舞台にあがることはありません。


 この辺りから南はトレッビアーノ・トスカーノの勢力は非常に狭められていて
 ある種の憐憫すらも感じてしまいます。(^^;)

 最大で約50%までを認められたDOCとしてはベネヴェント県の

 
ソロパーカ・ビアンコDOC ⇒ ファランギーナやコーダ・ディ・ヴォルペ、
                     マルヴァジアとのブレンド

 タブルノ・ビアンコDOC ⇒ ファランギーナとのブレンド


次は、プーリア州。長靴のかかとにあたるサレント半島を擁した広大な
ワイン産地です。




 ここまで来ると、トレッビアーノ・トスカーノの進出もなかなか難しいようです(^^;)

プーリアでは、ボンビーノ・ビアンコ種やヴェルデーカ種の存在が強くなってきます。

オレンジ色の地域は、サン・セヴェーロDOC
緑の地域はジョイア・デル・コッレDOC


いずれの地域もトレッビアーノ・トスカーノの比率は50%前後。

サン・セヴェーロはボンビーノ・ビアンコとのブレンド。ジョイア・デル・コッレは
70%までトレッビアーノでその他の認定ブドウならなんでもOKという規定です。

ボンビーノ・ビアンコは、個人的にはなかなか秀逸なブドウだと思います。プーリアの
土着性をアピールできる質感が幾つかのワインにすでに出ていると思います。特に
サン・セヴェーロDOCには、注目すべきワインがありますが日本に輸入されている
という情報は残念ながらありません。

バジリカータ州には、赤ワインのDOCしか存在していませんの割愛しますが
ブドウとしては認定を受けていますのでブレンド用として、そしてテーブルワイン
レベルでの醸造はかなり頻繁に行われていると思われます。

次は、カラブリア州へ!!



この長靴のつま先がトレッビアーノ・トスカーノの最南端ということになります。

 ここは非常にギリシャ文明の影響を受けた土地柄でその伝統を今の醸造にも
受け継いでいる地域ですので、ブドウ品種もギリシャ起源のものが主流になります。

赤ならガリオッポ種。白ならグレコ種。

足の裏手のチロ・ビアンコやメリッサになると、主体はグレコ種です。
これが、スカヴィーニャ・ビアンコ、ラメツィア・ビアンコになるとシャルドネや
グレコ、そしてマルヴァジアが登場する。やはりギリシャですね!!

カラブリアのワインといえばやはりチロDOCが最も有名どころですので
トレッビアーノ・トスカーノはあくまでもバイプレーヤーです。


特に日本ではチロ地区のリブランディ社が圧倒的に支持されていると
思います。必ず一度お試し下さい。その質感にはびっくりすると思いますし
リブランディ社の持つワイン哲学にも心打たれます。

以前僕がワイン雑誌に寄稿した記事はコチラ

リブランディ社のHP

リブランディ社のワイン

ということで、トレッビアーノ・トスカーノの栽培地域を探ってきましたが
いかがでしたでしょうか。

 エトルリア起源のブドウということを考えるとそのメッカは文字通りトスカーナ
地方、そして70年代までの大量生産時代に躍進したものの、その後の
イタリアワインのルネッサンスの流れには取り残されてたという印象はぬぐえ
ません。

 それでもこのブドウに僕が愛着を感じるのは、古き良きイタリアの
「素朴さ」や「粗野さ」をグローバリズムの流れに乗り切ることなく、いわば
ブドウ自体が人間のメンタルな部分を代弁するかのようにワインにその味わい
を残しているからだと思います。


 ニューワールド的なモダンなスタイルのワインを愛すことはおそらく
簡単でしょう。

 そしてその世界の最先端の流行ワインに一定の距離を置いているのが
トレッビアーノ・トスカーノのワイン。

 「立ち遅れたワイン」

 それでもトレッビアーノ・トスカーノの「負」の部分も含めてこのワインを愛すことは
イタリアと言う風土を愛すこととそれほど矛盾しないのではないか、という
風に思います(^^)

 とは言え、大きな枠としての「トレッビアーノ種」として考えると、ヴァレンティーニの
トレッビアーノはもちろんのこと、特にトレッビアーノ・ダブルッツォDOCには
注目すべき作品が出現してきています。

トレッビアーノの躍進は、イタリアワインの底辺の底上げを意味しますので
この底上げが「没イタリア」「没地方主義」を意味するのか、それとも「新しい
イタリア性の提案」となるのか、注目し続けたいと思います。


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